第14回日本建築学会関東支部提案競技

第14回日本建築学会関東支部設計競技、伝統的建築群に応答せよにおいてM1の林、滝沢が建築・まちづくり賞を受賞させていただきました。また11月18日には桐生有隣館にて桐生のみなさまへプレゼンテーションを行いました。桐生市のみなさま、関東支部のみなさま、貴重な機会を設けて頂き大変ありがとうございました。

以下提案内容をご紹介いたします。

桐生織屋 KIRYUORIYA  ー裏から考えるまちおこし





桐生のまちを歩いていると空き地や歯抜けになっている土地を多く見かけます。また空き地のおくには魅力的な伝統的建造物が建っているのですが、その前は塀で遮られ外からは見えなくなってしまっています。このような空き地を土地利用の観点からも観光の面からももう少し有効活用できないかということを考えました。


伝建地区を表したダイアグラムです。中央にはメインの通りあります。ここは商業的なポテンシャルも高く、地区の顔になる通りです。このメインの通りに沿う青い部分、通りに面した建物のファサードは、修景事業の中でも優先的に予算がつぎ込まれ、様式化された保存が行われます。その一方で、隙間、この図で言うと緑の部分の利用については、意外にも無関心です。特に近年伝建指定された所ではすでに少子化や地域の経済力の衰退によって歯抜けになっているような場所も多く見られます。ある意味で、こうした空き地にこそ、旧来型の地域保存方法の課題が顕在化しているとも言えないでしょうか。メイン通りの一部の建物の所有者が伝建のメリットを享受し、それ以外の人たちにとっては制約になってしまう。こうした保存の在り方が果たして地域にとって、有益なのでしょうか。少し悲観的な言い方をしましたが、同時に私たちはここにチャンスがあるとも捉えています。伝建の取り決めでは面路に対した建築行為は細かに決められているものの、側面や裏面に対しては、これと言ったデザインの指針がないのが現状です。ならば空き地に面した側面や裏に対するデザインを提案することでまちづくりの手法を提示できないか。また、そのことのが新しい桐生らしさをみつけるこということにつながっていかないかと、私たちは考えました。


少し引いたスケールでこのコンセプトを説明します。一番左が現状で、メインストリートに頼ったまちづくりの構造です。このような状況では、観光客がこの街を訪れても、この通りだけを見て帰ってしまうという恐れがあります。来た人が桐生の魅力を発見し、「また来たい」と思って帰ってもらうためには、この640Mの通りはあまりに短かすぎます。そこで中央の図の様に、街のなかの隙間やウラという、一見すると町並みにとってはマイナスとなりかねない場所に着目しそこからまちづくりの議論をスタートさせます。この過程では所有やプライバシーなどの問題が予想されます。しかし、それ故に、旧来型のトップダウンに頼らない、住民参加型、ボトムアップの景観形成が実現するのではないでしょうか。そして右の図のように将来的には空き地やウラの新しい利用方法が隣へ、隣へ、とつながっていきます。結果として他にない桐生オリジナルのアクティビティが展開され、大通りに負けない魅力を持った新しい導線を生み出します。


以上のことを踏まえ、一つの答えとして私たちは店舗のリノベーションを提案します。建物は現在空き店舗になっており、敷地の奥にはこのようにほとんど使われていない空き地が控えています。



そしてこれが私たちが提案する桐生織屋です。手前部分は既存の建物を改修し、奥の部分にアーティストが短期間滞在できる建物を計画しました。ファサードは伝建制度による規制がかかるため、大きなデザイン変更はできません。むしろ伝統を尊重した修景を想定しています。しかしながらすきまの部分からは奥の活動が垣間見えます。最大の特徴は、建物同士の間に、伸びやかなウッドデッキが設けられているところです。改装後は主に3つの空間が設けられています。第一に道に面した部分に服を売る店舗空間があります。その後ろには第2の空間としてワークショップスペースがあり、学生や地域の人が定期的に制作活動・展示を通じて交流できるようになっています。そして新築する第三の場としてアトリエがあり、アーティストが制作活動を出来ます。この3つの空間をつなぎ、なおかつ観光客を引き込むようにウッドデッキが設けられています。普段は地域のひとが腰をかけて集う憩いの場として、休日にはアーティストが様々なイベントを仕掛ける場所として使われます。デザインは既存の建物に呼応させつつ、出来るだけ簡素にすることでクリエーターによる自由な使いこなしを期待しました。これらの空間が、ウッドデッキによってつながれ、様々な活動が行われます。ここはステージであり、ベンチであり、テーブルでもあります。最初は使いようのないウラとして捉えられていた空間は、むしろ桐生の活気の発信地になっていきます。


公開審査会では審査委員長の乾久美子さんに裏と裏がどのように繋がるか、またプライベートな裏に観光客などの外部の人たちが入ってきたときにどんなことが起こるかということをご指摘頂きました。また他の受賞者のみなさまのプレゼンテーションも保存問題へのユニークな手法を提示されており大変刺激になりました。

M1 林・滝沢