グリーンヒル寺田 (M1miyachi研究内容)

東京都八王子市に、グリーンヒル寺田という団地があります。場所は八王子市の最南端で、京王線めじろ台駅からバスで10分。団地といっても「耳をすませば」に出てくるような、いわゆる大きなハコ型の積層集合住宅がいくつか間を空けて立っているものとは少し違って、低層タウンハウスが立ち並ぶ静かな住宅地です。1981年に住宅・都市整備公団が計画したもので、この時期の団地はこうした低層タウンハウスが立ち並ぶタイプが多いようです。建物も道も公園も植栽も、全てが同時にデザインされているような印象を受けます。

僕はここで物心つく前から大学に入る時まで、約18年間住んでいました。


建物は西欧風なんて銘打って、白い壁にオレンジの瓦で統一されています。一つ一つのデザインは決してカッコ良くはないかもしれませんが、ここまで建築群として一貫してつくられると、必然的に統一感が生まれて妙に落ち着いた雰囲気を醸し出しています。“建築計画”にかなり期待がされた設計がなされていて、よく見るとかなり珍しい建物が立ち並んでいます。種類も大変豊富で、大胆にスキップフロアを採用したものや、K嶋氏のスペースブロックばりに住居同士が複雑に噛み合ったものなど、かなり実験的な試みがなされています。



丘の上に計画されているのに宅地造成は最小限に抑えられていて、地形に逆らわないよう建物が配置されています。建物と建物の間の道は起伏に富んでいて、走り回る子供たちにとってはとてもエキサイティングでした。歩車道分離が徹底されていて、歩道は地面に敷き詰められた赤いレンガと豊富な草花によって、心地よい外部空間を演出しています。公園や集会所などの住民が集まれる場所も豊富にあって、近所付き合いも比較的盛んだったように思います。




町の中心部、商店街のそばに立つ積層型の集合住宅は全て賃貸。エレベーターが数本しかない代わりに階段室が充実していて、2・3層おきにしかない共用廊下を使って横に移動します。一見合理的ではないように見えますが、隣の家と階段室の踊り場を共有することで、他の住戸との距離感は近く感じます。

小学生たちにとってはジャングルジムのような建物で、よく鬼ごっこやドロケイをやって怒られました(笑)


今もまだ住宅地としては現役で、数多くの人が住んでいますが、残念ながら明らかに人の数は減っています。やはり交通の便の悪さが一番の短所のようで、賃貸住宅はほとんどが空家になっていました。自分が小学生ぐらいのときにはいたるところに子供が溢れていたのに・・・。町の中心にある商店街は僕の高校時代ぐらいから徐々に店の数が減り始め、ついには郵便局と薬局を残すのみとなっていました。商店街の要だったスーパーですら、今年の2月に撤退してしまったようです。


歩き回っているうちに小学生たちが下校してきました。僕らの心配をよそに無邪気にはしゃぐ彼らの姿が微笑ましかったです。町に二つあった小学校は3年ほど前に合併されました。


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僕はこの町の外部空間について研究をしています。幼少時代に走り回った町を、かつての身体感覚をたよりに分析することで、自分の中の本能的な身体感覚を客観視できないだろうかという試みです。それは自分自身の原風景と向き合う作業でもあります。モノをつくる人間が自分の原風景と向き合うことは、多少遠回りであっても無意味なことではないはずです。建築計画的あるいは建築史的な視点から取り組むのではなく、あえて空間的視点で見つめることで、自分自身の創作活動に結びつけられれば、と考えています。

前期ではまず、文献をもとに公団の歴史の中でのポジションをつかみ、同時期の他の計画と比較することでこの団地の特徴を相対的に導きだそうと思っています。


M1 miyachi