宇宙人のはなしを紹介

「宇宙人になろう」*1と地球人にすすめる生き物が、日本には棲息している。それは、中谷礼仁という宇宙人だ。*2


冗談のような話だが、僕はハマってしまった。結論をすごく簡単に言ってしまえば、普遍的な視点で構築物を見ようということなのだが、それを宇宙人を持ち出して語るなんて、めちゃめちゃ面白いと僕は思う。


内容の紹介…
中谷さんは「世界遺産を宇宙遺産に」*3のなかで、絶対的他者としての宇宙人と地球人の絶対的共通性を、何らかの重力場=大地に棲息していることとし、宇宙人と地球人の共通する感覚、そこから発生する美意識が存在する可能性があると言う。それは重力と重力を基本にしたダイナミクス、あるいは地面(グラウンド)とそのダイナミクスであると。そう考えると、僕らが普段、無意識に関わっている地球の構築物を、宇宙人にも理解しうる可能性が出てくる。そして、中谷さんは普遍的存在である宇宙人*4も価値を認める構築物の基準として次の3つをあげている。


  構造—重力的俊敏さ
  構造—重力的巧妙さ
  構造—重力的移動性


一つめの構造—重力的俊敏さの例として、バラックがある。中谷さんは、その報告者として日本の誇るべき宇宙人、今和次郎の名前をあげる。今和次郎という宇宙人は、関東大震災後の東京を歩き回り、被災者たちがつくったいろいろな仮住まいをスケッチブックに記録した。その仮小屋の中には、布でテントのようにできたものや土管で外周をつくったもの、お墓から持ってきた塔婆でできたものもあった。この今和次郎によるバラックのスケッチを見るだけでもかなり面白い。*5こうしたバラックの細部は、人間という生き物のアドリブ能力の優秀さを物語るサンプルとして宇宙人に評価されるかもしれないと中谷さんは言う。それらの仮小屋は次第に、規模としても住宅の機能としても発育*6していった。それは、材料こそ異なれ、シェルターからハット、バラックへという人間の住居の発生過程をもう一度再現したかのようであったという。*7
二つめの構造—重力的巧妙さとは「有限な大地の素材を重力にあらがって、最小の労力で、最大の効果を得るように変形させる例」(中谷礼仁)。そして、宇宙人バーナード・ルドフスキーによる『建築家なしの建築』の報告をあげる。
三つ目の構造—重力的移動性では、重力にあらがい、材料を運び、それを垂直に高密度で立ち上げたマンハッタン埠頭(スカイスクレーパーと、マンハッタンまで材料を届ける場所となる海辺のドック群)をあげる。

どれも、何か普遍的なシステムを内在して出来上がったようなモノだ。


「宇宙人とバラック」は家の話を軸に書かれている。現代において古民家を再生し「普通」の民家をつくりあげることは容易ではない。昔なら、家をつくる上で方法の選択肢、材料の選択肢は限られている。人間がその中でがんばって違う家をつくろうと思っても、それぞれの家は環境の中で一定の調和されたかたちに収束していく。そのため、出来上がる家は何かしらの普遍性を持つのだ。しかし、現代においては、その選択肢は膨大である。その中で、昔の人が無意識に行っていた家のつくりかたをするのは、相当に意識的にやらなければできないことだ。つまり、宇宙人の視点にならなければならない。現代において、「普通」の家をつくることは非常に大変なのだ。
家の普遍性として、宇宙人は次のようなことを日本人に指摘するかもしれないと中谷さんは言う。人のために家があるのではなく、家が生きるために人がいるのではないか、と。家における人以外の因子(ハカ・クラ)が相当大きいという話だが、僕はこの話と塚本由晴が言う「建築の主体が人からずれていく」*8という話はかなり関係する思う。今ここでは説明できないが、やはり塚本由晴は建築における普遍的なことをデザインに組み込める、数少ない建築家の一人だと思う。

以上のように、宇宙人になれるかどうかは、いかに普遍的な視点で考えられるかということである。

僕も、宇宙人になりたいと思うのである。


GURE

*1:http://www.ream.ais.ne.jp/~fralippo/module/Study/NKM041118_ucyujin/index.html『チルチンびと』No.30 2004年秋号風土社

*2:早稲田大学 中谷礼仁建築史研究室 | "Nakatani Seminar", Department of Architecture, Waseda University. 建築史、建築理論、歴史工学研究 Architectural History, Theory, Temporal Science for Architectual Expression

*3:『建築雑誌』2009年1月号

*4:当たり前だが、地球人は宇宙人の一種。

*5:『住居論』今和次郎全集4 川添登他編 1971 ドメス出版

*6:今和次郎が発育という言葉を使っている

*7:めっちゃ余談ですが、hutというのは、伊東豊雄のシルバーハットのハットと同じハット。シルバーハットは近未来的でありながら、バッラク的でもある二面性を持った東京を存在基盤とする以上、その両面を反映させたかったという作者の思いから名付けられた、宇宙の小屋

*8:『住宅特集』2008年11月号